コンセプトダイアグラムは、顧客の心理・態度の変化と、それを促す企業の施策を一枚の図で整理するフレームワークです。完成した図を眺めることよりも、顧客についての仮説をチームで共有し、調査やデータで検証できる形にすることを重視します。
この記事は2018年に公開した「描き方」を、2026年時点の公式ルールに合わせて全面的に更新しました。
描く前にそろえるもの
最初に、対象とする事業・商品・サービスと、誰について考えるのかを決めます。同じ「顧客」でも、置かれた状況や抱える課題が違えば、スタートやゴール、変化を妨げる心理要因も変わるためです。
正解を知っている人だけで描く必要はありません。顧客対応、営業、商品企画、マーケティング、データ分析など、異なる接点を持つ人が参加すると、チーム内の認識の違いも重要な発見になります。
現在の必須8項目
現在の公式ルールでは、次の8項目を必須要素としています。
- 対象顧客:誰の変化を描くのか
- スタート:企業が働きかける前の顧客の状態
- ゴール:事業を通じて実現したい、持続的で望ましい顧客の状態
- 2つの心理軸:スタートからゴールへ進むうえで変化する、互いに異なる心理要因
- 顧客状態:途中に現れる心理・態度・価値観の状態
- 状態変化:顧客状態を結ぶ矢印と、その変化の意味
- 施策:状態変化を促す企業の働きかけ
- 評価指標:仮説どおりに状態変化が起きたかを確かめる指標
過去の記事や資料にある「ステップ」「箱」は、現在の公式用語では原則として顧客状態と呼びます。作図作業の手順と、完成図の中に置く状態を混同しないためです。
描く順番
1. 対象顧客を決める
年齢や性別だけではなく、置かれた状況、課題、経験、事業との関係を言葉にします。対象を広げすぎると、異なる変化を一つの図に押し込むことになります。
2. ゴールを決める
ゴールは、事業によって顧客の悩みや潜在ニーズが満たされた、持続的な状態です。「売上が増える」「会員になる」「商品を好きになる」のような企業都合の成果ではなく、顧客にとって実現する価値を表現します。
商品やサービスは目的ではなく手段です。「ドリルが欲しい」から「穴が欲しい」、さらに「片づいた家で快適に暮らしたい」へと目的を掘り下げると、事業が支援したい状態を考えやすくなります。
3. スタートを決める
スタートは、ゴールから2つの心理軸をともに戻した位置にある、アプローチ可能な潜在顧客の状態です。課題やニーズをまだ自覚していない場合もあります。
4. 2つの心理軸を決める
スタートからゴールへ進むために変化する心理要因を2つ選びます。たとえば知識・理解に関する軸と、意欲・自信に関する軸です。実際には対象事業に合わせて具体的に表現します。
満足度や達成感のような結果、ブランドへの信頼やファン度のような企業中心の評価を、そのまま軸にしないよう注意します。2軸が似すぎると顧客状態が斜め一直線に並び、2軸で整理する意味が弱くなります。
5. 中間の顧客状態を置く
顧客が心理的なハードルを越えた後の状態を、スタートとゴールの間に置きます。「訪問」「登録」「購入」などの行動やタスクだけで区切るのではなく、その時の気持ち、態度、価値観が伝わる言葉にします。
「ムリかも」「何とかなりそう」「手ごたえを感じる」のように、表情や心の声が浮かぶ短い表現が有効です。具体的な行動例や発言は、状態そのものではなく補足の吹き出しとして添えると整理しやすくなります。
6. 状態変化を矢印で結ぶ
すべての顧客が同じ一本道を進むとは限りません。異なる状態から同じ状態へ合流する場合や、一つの状態から複数の方向へ分かれる場合もあります。矢印ごとに「何が変わったのか」を説明できるようにします。
7. 施策を置く
施策は顧客状態の箱ではなく、状態変化を表す矢印に対応させます。「どの状態の人に、何を働きかけ、どの状態へ変化してもらうのか」が説明できる位置に置きます。
オンラインとオフライン、実施中の施策と新しいアイデアを区別せず、まず全体に配置します。施策がない矢印や、施策が一部に偏った箇所は、顧客理解や事業設計を見直す手がかりになります。
8. 評価指標を決める
施策の実施件数だけではなく、狙った状態変化が起きたかを確かめられる指標を置きます。行動データだけで心理状態を断定せず、必要に応じてアンケート、インタビュー、顧客の発言なども組み合わせます。
9. 全体を見直す
最後に、顧客状態、矢印、施策、評価指標のつながりを確認します。図は完成品ではなく、検証可能な仮説です。顧客の声やデータから矛盾が見つかったら更新します。
顧客状態は最大7個、実務上は5〜6個を推奨
2つの心理軸をそれぞれ3段階に分けると、図には3×3=9つの領域ができます。このうち右上と左下は、片方の心理要因だけが高く、もう片方が低い、通常の主要経路としては望ましくない「落とし穴」の領域です。これらを通常使わないため、標準構造で中間の顧客状態を置ける理論上限は7個になります。
ただし、7個すべてを使うと状態の差が細かくなり、施策や評価指標を運用しにくいことがあります。似た状態を統合し、軸の下側または右側へ寄せて整理した5〜6個を実務上の目安とします。どちらの数にもスタートとゴールは含めません。
過去資料の「7つ以内」と現在の「5〜6個」は、新旧で異なる正解ではありません。前者は構造上の上限、後者は使いやすさを考えた推奨値です。
2018年版から変わった点
2018年版では、中間状態を「ステップ」または「箱」と呼び、描く手順を5段階にまとめ、評価指標を必須要素として明示していませんでした。現在は次のように整理しています。
- 「ステップ」「箱」を「顧客状態」に統一
- 対象顧客、状態変化、評価指標を含む必須8項目を明示
- 描く手順を、準備と検証を含む9段階として整理
- 「7つ以内」を理論上限、「5〜6個」を実務上の推奨と定義
- 完成図を成果物ではなく、継続的に検証・更新する仮説として位置づけ
この更新は、過去の描き方を否定するものではありません。実践を重ねる中で暗黙だった判断基準を明文化し、古い資料を持っている人にも新旧の関係が分かるようにしたものです。
公式サイトの詳しい資料
定義や描き方を引用する場合は、更新が続くコンセプトダイアグラム公式サイトを一次情報として参照してください。